欲望だけのブログ

性欲の強い女が陰でぐちぐち言うブログ

姫条まどか「その指輪なんなん?」



なんの前触れもなく、突如私の目の前に現れた彼はとても悲しそうな目をしていた。


「とんだサプライズやな」


嫌味に笑う口元は歪んで、ムリヤリに笑みを作っているようだった。


「待って、あなた…まどか…?」
「せや。待ちに待っとった日がやっと来たっちゅうんに。ホンマ、神様は残酷やな。」


少し上を向かないと見れない目も、チョーカーを着けた男らしい首元からするホワイトムスクの香りも、あの大きな手も全てずっと頭の中にあった想像通りで、こんなに人を愛おしく思ったことなんてなかったのにそれを表現できない関係を恨んだりもした。けれど、それが現実だから。私とまどかの間には越えられない壁かあるから。ずっと我慢してきた感情が溢れそうなのに、それを表現するすべさえもわからなくてただ胸が締め付けられるように痛くて、ただまどかの顔を見ることしかできなかった。ずっと見たかったその顔。
そのまつげ、その唇。


「ジブンが望んだんやろ?」
「…」
「ジブンがオレに会いたいって、なんべんもなんべんもお願いしたんやろ?オレかて、会いたーてしゃーなくて…、こんなん言ったって何の役にもたたへんな」


スチルで見た悲しそうな目よりも何倍も悲しそうな表情をするんだね。額に皺を寄せるだけなのに、かっこいい。ずっと会いたかった。ずっと願ってた。会えるならなんだってするって。でも、まさか本当に会えるなんて思ってなかった。


「なぁ」
「はい…?」
「オレは本気でなんべんもなんべんも祈ったんやで?ジブンに会えますよーに!ちゅーて。ホンマ、数え切れんくらいにや。それが今やっと現実になった。高校卒業していきなり消えたおまえに会いたい会いたいって…。ホンマに、好きやったから。ホンマにお前のことしか頭に浮かばんかった。」
「まどか…」


わたしも。
その一言が出てこない。


「卒業してから11年も経つんやなー。この11年間はホンマに地獄やった。おまえのいぃひん世界なんてホンマにつまらんねん。
たとえ俺のものにならんでも、いつまでも笑いあえる友達みたいな関係でもええ。そんなん考えたりもしたけど、やっぱ目のまでにしたら辛いわ。」


私の左手に光る指輪を見て言う。


「もう、オレの事は必要なしなん?」


目をそらして言うのは、辛いから?
6月にしては冷たい風が吹く。まどかの髪の毛が揺れてまた強い香りがして心地いい。


「まどか…」
「なんや、慰めにラーメンでも奢ってくれるん?」
「ちがうよ。」
「じゃーなんや」
「誕生日おめでとう。」


「…へ?」


「29才、おめでとう。」
「こんなときにそんなんええねん」
「一緒になろう。」
「は?」
「まどかとずっと一緒に…いたい」


心臓がドキドキ言いすぎて口から出るんじゃないかと思った。でも、伝えないと。こんなに好きな人が目の前にいるのに。ずっと愛するって何年も何年も考えてた人が目の前にいるんだから。

まどかの反応が怖くて下を向いていると、暖かい大きな手が頭をなでた。そのまま抱え込まれるように抱きしめられると、まどかが触れてる部分が痺れて溶けそうになる。

「愛しとる。ホンマに。」


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「これからどないしよか?」
「とりあえず指輪を捨てようかな」
「せやな」